青年海外協力隊を目指す人へ

表題について生意気なことを言える立場ではありませんが、一応アフリカ生活も2年を迎えることができそうなので、自分の経験から思うことを素直に書きます。医療機器という職種なので、考えが偏っていたり参考にならない人も多いかと思いますが、できる限り共通して言える事、心構えなどをキーポイントを交えて綴ります。


自分は協力隊への参加を決めたとき、
「自分に何ができるんだろう・・・?」
ウガンダ人ってどんな人・・・?」
「うまくやっていけるかな・・・?」


参加を決めたものの、こんな心配ばかりしていました。職種は医療機器。臨床工学技士という資格を活かすつもりでしたが、実務経験としてはX線医療機器の会社での勤務経験しかありませんでした。でもきっと何か自分にできることはあるだろうという信念はどこかにありました。出発までは、希望と不安な気持ちが入り混じったような状態が続きました。



キーポイント:自分を知る

自分が今まで培ってきたものは何か、もう一度じっくり見直してみてください。何だっていいんです。仕事の経験ももちろん大事ですが、好きだったこと、得意なこと、苦手なこと、趣味など。仕事と繋がらないことでも、見方を変えれば活かせます。
例えば、自分はもともと絵を描くのが好きですし、折り紙とか細かい作業が好きでした。それを活かして仕事場を飾りつけるのも良いかも知れません。分かりづらいところに標識や掲示を出すのもいいかもしれません。小学校や村を訪れると、折り紙で子どもたちと遊べますし、15年くらい続けてきたバスケットボールだって、コートはあるので教えることもできます。
それから、日本人が当たり前のように使用しているパソコン、デジカメなどの電化製品。
エクセルで表が作れますか?ワードで書面を作成することができますか?パワーポイントを使ってプレゼンができますか?それだけでもたくさんの人の仕事を助けることができます。
自分の例でいうと、病院のデータ管理を手伝うことができます。書面で自分の意思表示をすることができます。自分とスタッフだけのユーザーマニュアルを作れます。自分の知識や経験をプレゼンすることができます。
「国際協力はこれだ!」という決まりは無いので、自分の経験から何ができるか、何がやりたいのかを見つけることから始まると思います。何か目標を掲げる必要があると思います。
まず、自分自身を見直すことが第一歩です。




キーポイント:現状把握

ウガンダに赴任して、これまで見たことも無い医療機器にたくさん出会いました。到着してすぐは、とりあえず巡回し、院内にある医療機器を1台1台見て、必要そうなものは写真を撮りました。そして医療機器の一覧表を作成しました。一覧表には、各医療機器に対して状態を評価するために、ABCDEFといったように記入し、後から見直したときに役立てました。一覧表は作成するのが大変でしたが、作ってしまえば2年目以降は情報をアップデートしていくだけです。
ここでも、特にこれといった決まりは無いので、自分でルールを作っていけばいいと思います。例えば、上の例で言うとAは良い状態。Bは良い状態なのに使われていない。Cは使われているけど問題がある。Dは使われているけど型が古すぎる。Eは使用できないけど修理できる。Fは壊れていて、修理もできない。といった具合です。
「Bがついている理由は?」と考えていくと、必要なことが見えてきます。単に使わないのか、使い方が分からないのか、その2つだけでも大きな違いがあります。
どんな職種で派遣されたとしても、やっぱり「現状把握」。
そしてその現状から自分が介入できること、自分が手助けできそうなことを探せばいいのです。ウガンダには同じ職種が他に2人居ます。全員、臨床工学技士の資格を持っていますが、1人は総合病院の手術室で毎日を過ごしていた人で、1人は人工透析のクリニックで働いていました。そして自分は医療機器のメーカーです。同じ職種でも、バックグラウンドはそれぞれ全く異なるのです。職種が医療機器だからといって、全ての医療機器に対して対応できる臨床工学技士などいないと思いますし、日々医療機器は進歩し、新しいタイプが次々と現れるので、自分は経験が足りないから・・・などと気負いすることは無いな、というのが今の正直な意見です。
実物を見たときにどう対処するか、それが2年間の活動で「自分」というものを作っていくのだと思います。




キーポイント:アプローチ

現状を把握できたら、自分のこれまでの経験から何ができるか、そしてどうアプローチしていくかが鍵です。勤務先の人は、自分にどんな経験があって何ができるか分かりませんし、増してや自分自身がそれを探している状態でした。笑
現状把握ができれば、簡単そうなこと、些細なことはすぐに対応します。分からないことがあればマニュアルを読んで、手助けします。分からないことは、無理して分かったフリをする必要もありません。対応を繰り返していくことで、自分はこんなことができると、徐々にアプローチしていくことができると思います。
新しい仕事に就いたとき、このような境遇にあるのはどこでも同じではないでしょうか。自分にできることを探して、徐々に自分の居場所や地位を気付いていく。同じです。




キーポイント:フィードバック

そういった日常を過ごしていると、病院を巡回する度に相談を持ちかけられるようになりました。
「あの機械の調子が良くないんだけど・・・」
「あれってどう使うんだっけ?」

解決しそうな問題はその場で回答できると思いますが、解決できない場合もあります。この時に大事なことは、放置しないこと、忘れないようにメモすること。また、放置されないように働きかけること。解決できるのか、できないのか、何か提案できるのか。特にお金が絡むと時間を要し、解決に導くことがすぐには難しいかもしれませんが、一緒になって考えることが大事です。
これは一緒に働いているという、信頼関係にも繋がると思います。
新しいものに出会ったらそこで学べばいいですし、分からなかったら分かる人やメーカーに聞いてみる。そして次回からはサポート無しでできる、そんなことを積み重ねていけば自然と知識もつきますし、理解できれば自分がやっていることに自信が持て、そこに楽しみが見出せると思います。




キーポイント:プラス思考でやってみる

NIKEの有名なキャッチフレーズ「Just do it.」。この言葉は好きです。
「何年も放置にされた倉庫があるから、掃除したい」
こんなことを突拍子もなく言われたことがあります。なぜ自分にこんな事を持ちかけるのか疑問に思いましたが、
「こいつに言えば何とかなるかも。」「何とかしてくれるかも。」
とでも思ってくれたのかな、そう勝手に感じました。笑

何だか腰が重くなるようなことを引き受けるときは、究極すぎるくらいのプラス思考がいいかも知れません。
「なんでそんなこと俺に言うんだよ・・・」
とブツブツ言いながらやってみるのと、
「たくさんの人に頼ったけど、みんなに断られて、泣く泣く自分を頼ってきたのかな。」
と考えるのとでは、相手への対応も変わるでしょうし、自分のモチベーションもまったく異なります。

でもこんなときは、自分1人でやるようなことはしません。
「そんなに大変そうな仕事なら、病棟が忙しくないときに一緒に!」
とか言って、できる限り巻き込むべきです。汚れたらあの日本人がまた掃除してくれる、と思われては、ただの掃除屋さんです。
それから、「ウガンダ人のためにやってあげている。」という考えは捨てたほうがいいと思います。うまく物事が進まないとき、「やってあげてるのに・・・」と考えてしまうと負の連鎖。ストレスの溜まる一方です。
むしろ主体的に、自分がこうしたいから、病院をきれいにしたいから、一緒になってきれいにしていこう!と考える方が自然かと思います。
海外ボランティアというと、途上国を発展させるために、遠くの国からスーパーマンが助けに来たような印象を受けるかもしれませんが、こっちが学んでいることだってたくさんあります。だから、やってあげているというより、経験させてもらってる、または一緒に経験する、という方がしっくりきます。
みんながやりたくない事を、プラス思考で提案したり引き受けて、一緒に巻き込んでやってみる。それが良い例として、病院全体に自然と拡がっていくことを期待して行動しています。
また、キツかったり辛いときでも、ネガティブなことばかりを言わないようにもしています。

あなたの周りの人は、よく笑っていますか?若しくは機嫌の悪い人ばかりですか?
自分の周りの人は自分の鏡とよく言われますね。自分が笑っていれば、話している相手も笑ってるはずですし、落ち込んでいれば、相手もそんな表情をしていると思います。自分は、自分の周りの人が笑顔でいてほしいので、自分もできる限り笑っておきたいです。
何かと相談を持ちかけられ、自分はよく「何でも屋」と言われますが、自分はそれで良いと割り切っています。むしろ、相談してくれてありがとう!と言ってやりたいくらいです。
全ては、お互いの成長のため。




キーポイント:常に日本と比較しない

異文化に溶け込もうとするとき、邪魔をするのは母国の考え方、価値観。でもそれは悪いことではありません。それを理想として持っていれば、改善すべきことはたくさん見つかるからです。
ですが、日本ならこうできるのに、日本人ならこうするのに・・・そんなことばかりを考えても意味ありません。問題は、その理想図を持っていない人に自分の考えを伝えるときです。
例えば、病院をきれいにしよう!という活動を拡めようとします。
自分から見たら、「きったないなー。」
と思うことでも、それで何十年もやってきたウガンダ人からすれば、これが普通、改善の必要はない、と言われれば困ったもんです。
そもそも、ウガンダ人は日本人の生活にあこがれているかも知れませんが、日本人になりたいわけではありません。日本は発展していると知っていますが、実際に日本へ行ったことがあるウガンダ人なんて、ほんの数えるほどです。
ウガンダにはウガンダの発展の仕方があるはずですし、提案はしますが、自分の独断と偏見で進めるようなことはしないようにしています。何か実行するときには、必ずスタッフに相談するようにしています。
日本はこうです。日本人はこうします。だからそうしなさい・・・?それが常に通用するとは思いません。そんなことばかりをウガンダ人にひたすら投げかけても、日本はスゴイねー。とは言うかもしれませんが、実行することなくそれで終わりかも知れません。逆にそれらを窮屈に感じる人がいることも事実です。
ウガンダ人にはウガンダ人のやり方があります。だから日本人の考え全てを押しつけるのは避けたいものです。ウガンダのいい部分を残しつつ、日本からいいところを盗んで、ウガンダのやり方や標準を築いていくのが将来のウガンダにとって価値あるものへとなるはずです。




キーポイント:いい人をみつける

活動していると、必ず自分と気の合う人が出てきます。それはここでは恋人、という意味ではなく(笑)いい考えや人柄を持った同僚や友だちという意味です。
自分で見つけていく必要がありますが、活発な人、こっちの考えを受け入れよう、理解しようとしてくれる人が一般的には当たると思います。
これは異国の地で長年生活する上で、また自分が去った後のことを考えても重要な要素です。
先ほどの例を使えば、もし院内をきれいにしたい場合、やる気と可能性の最もあるスタッフと力を合わせて進めていくのは、一番手っ取り早い方法です。きれいにしたのに、1週間もすればまた汚い状態。そんな状態であれば、重要性がわかってくれるまで後回し。それでもいいと思います。
それでもいいと言えるのは、そのまま放置してさようなら!というのではなく、自分の経験から言うと、1つの病棟をきれいにしてモデル病棟を作れば、噂が拡がって全病棟から依頼が来るようになるからです。教え込む、押し付けるより、必要だと自ら気付かせ、自ら動いてくれれば成功です。それは、国際協力の最も難しいところであり、見方を変えれば大きなやりがいの1つだと思います。



キーポイント:モチベーション

青年海外協力隊は、医療機器のように何か手に職があったとしても、所詮はボランティアです。背中にJICAという大きな看板を背負っていますが、本人そのものに然程の権限があるわけではありません。お金の問題に直面すれば、配属先の同僚や上司に相談しますが、簡単なことではありません。1回話しただけで簡単に手続きが済んでお金が手に入るようなことはありません。
病院ではたくさんの問題が常に錯綜していますし、優先順位が低いと判断されれば、回答を得られないことも多々あります。定期的に話題に挙げ、何度も何度も話して、ようやく理解が得られたとき、達成感はありますが疲れます。
どうしても配属先からの承認が降りないとき、JICAが助けてくれることもあります。購入物品や勉強会などに必要な経費が使えるのですが、これもいつもではありません。配属先も、いつまでもJICAに頼るわけにはいかないので仕方の無いことです。

なかなか物事がスムーズに行かない・・・それはアフリカで生活する醍醐味です。効率的に働かなかったり、電気が止まったりなど様々な要因もありますが、感覚的には日本で1日でできることが、ここでは1週間かかります。2年間は約100週間、ということは100日分くらいの仕事しかできてないのかな・・・とか考えてしまうこともあります。
考えすぎて行き詰ると、仕事に対するモチベーションが絶対に下がります。その時、どうやってモチベーションを回復するか、それは自分自身が一番知っていることだと思いますが、2年間生活する中で大切な要素です。
モチベーションが回復するきっかけは音楽なのか映画なのか、スポーツなのか、人によってそれぞれ異なりますが、気晴らし方法はあればあるほど自分の心強い味方となってくれるはずです。

自分は一般的なストレス解消法も取り入れていますが、ウガンダだからこそできるストレス解消法があるので紹介しておきます。
自分は、ウガンダに来てウガンダ人を知るために来ました。病院で勤務していると、当たり前ですが健康な人はあまり居ません。なので本当のウガンダを知らないのじゃないかと思い、週末時間のあるときに、村へ足を運んでいます。
そこには裸足で走り回る元気な子どもたち、楽しそうに会話する人々で溢れています。やはり病院で働いているだけでは、本当のウガンダを知ることはできないので、村を訪れることは楽しいものです。ウガンダ人は陽気な人柄ですので、みんなが喜んで受け入れてくれます。

それから、旅です。前回の記事で書いたように、ウガンダを知ると、ウガンダが基準となって他国との違いを見ることが出来ます。休暇を取って、他国も見ておく必要があると思います。
同じアフリカでも随分と異なりますし、異文化に触れることは楽しいものです。そして気分転換できたら、それがまた仕事へのモチベーションへと繋がります。

また、ちょっと意外に思うかも知れませんが、青年海外協力隊には、評価の基準が具体的に決まってません。自分のさじ加減で、いくらでもサボれますし、いくらでも働けます。
あまりに勤務態度が酷いとそれは問題になりますが、この2年間を図る物差しなどはなく、仕事する上で会社のように細かなルールもありません。自分次第で自分をコントロールする必要があります。成長もできますが、腐ることも簡単にできます。自由な分だけ、自分自身に全ての責任があります。
確実に言えることは、絶対的な「信念」が必要なこと、それから信念を貫くためのモチベーションが維持が必要なことです。




キーポイント:仕事にプライドを

掃除のおばちゃんと話したとき、素晴らしいなーと思うことがありました。病院が開院する前後に床や窓などを掃除する人がいますが、その中に、挨拶をするといつもニコニコしていて、楽しそうに掃除しているおばちゃんがいます。ある日、何でいつも幸せそうなのか聞いたとき、彼女は、
「仕事があるだけでも私は幸せ。この子のためにもね。」
そういって指差したのは、背負っていた1歳くらいの小さな男の子でした。掃除にプライドを持つことはできるのか・・・自分の中のどこかで、彼女を見下していたのかも知れません。そんな質問をしてしまった自分が恥ずかしくなりました。
同時に、どんな仕事をしていてもどこにいても、自分のやっている仕事にプライドを持たなければならないことを認識させられましたし、できる限り、自分も楽しみながら仕事するように心がけようと思うようになりました。
全てを1人でこなせる人なんていません。病院を例で言えば、患者の容態を診ることができる医者がいて、サポートする看護師がいて、必要な物品を調達する事務や経理担当者がいて、清潔を保つためのクリーナーがいるのです。誰が欠けても病院は運営できませんので、それぞれが自分の仕事に誇りを持つべきなのだと思います。
どうしようも無いくらい行き詰っても、充分なサポートが得られなくても、ただのボランティアだとしても、青年海外協力隊としてプライドを持つべきなのだと思います。それはたくさんの選択肢から自らが選んだ道だからです。




キーポイント:形に遺す黒子役

何度も伝えてきましたが、ボランティアとしての寿命は2年。その後は、まだボランティアが必要と判断されれば後任が引き継ぎます。
基本的には、青年海外協力隊は、1つの配属先に3代~4代で終了です。1代が2年間活動しますので、平均で6~8年間は青年海外協力隊がその施設にいることになります。
ボランティア無しで活動が継続されるようにすることは、全ての職種で同じ目標です。いくら主体的に活発に活動を全うしたとしても、その人が居なくなれば活動もストップ。それでは、いくら頑張ったとしても、活動失敗として終わるのです。
人形に命が宿ったように巧みに操り、ステージを慌ただしく動き回る黒子。それがボランティアの立場を表現するのにぴったりの言葉だと言われます。
また、自分の経験は必ず形にしておく必要があります。報告書や独自に作ったマニュアルをプリントアウトしてファイルしておく。できればそれらを使って、実際に現場に行って説明したり、使用してみることで信憑性が増します。
将来的に自分が居なくなった時、彼らが自分たちで運用できるように、あくまでそのサポートとして、自分がやったことを記録しておくことは大切なことです。
自分が去った後に何が残るか、また2年間という限られた中で何が残せるか、それは全ボランティアにとって大きな課題です。




こんなところでしょうか。書いていて思ったのですが、実は日本でやったこととあまり変わらない気がします。
アフリカに来れば医療機器の知識が付くわけではありませんし、英語が自然と上達するわけでもありません。
全て自分次第です。

ふと思い出した、スラムダンクの1コマ。安西先生が、渡米して亡くなってしまった教え子から受け取った手紙から。
「バスケットの国アメリカの――― その空気を吸うだけで僕は高く飛べると思っていたのかなぁ・・・。」



環境を変えれば自分も変わるだろうと思い込むのではなく、自分自身が自分を変えようと思わない限りは、どこでどんな生活をしていても、同じような結果になるのだと思います。

今回の記事が協力隊を目指す人に限らず、人生の岐路に立っているような人の役に立ってくれると嬉しいです。
ここウガンダで、たくさんのことを考えさせられています。この経験は人生の中でも、かけがえのない経験となってくれそうです。


Ichimasa