医療と工学の可能性

日本からドイツに戻り3学期が始まりましたが、約3か月が経ち、ようやく学期末試験も終盤を迎え、落ち着いてきました。ここ3か月、季節は春。暖かくなり、道端にはきれいな花が咲いていましたので、撮った写真を話の間に入れていきます。

ドイツの桜。


今更ですが、勉強している内容にはあまり触れてこなかったので、どんな授業を受けているか、ちょっと紹介します。

当然、学期を重ねるごとに授業内容はだんだんと難しくなっていきますし、ほぼ全ての教科で実技やプレゼンテーション、そして筆記試験にパスすることが求められ、そしてようやく単位がもらえます。
実技は実験がメインで、会議や展示会に参加したときには報告書をまとめたりもします。
プレゼンテーションは、限られた時間内(1週間くらい)に、その教科に関するテーマを見つけ、リサーチを自分で行い、教授と他の生徒の前で15分から20分程度で発表します。
各項目から点数が出され、最終的には合計されて成績となります。ドイツでは、一番良い成績が「1.0」で1.3、1.7、2.0…と評価され、5.0を取ると単位が出ません。数字の大きい方が良い成績の日本とは逆です。

基本的に教授はパワーポイントを使って授業を行い、説明が必要なところは、ホワイトボードやOHPを使いますのでノートにメモをとります。中には、面倒なので板書を写真に撮る人もいますが…。
授業が終わるとパワーポイントは大学のサーバーにアップロードされます。そのファイルを使って復習しますが、パソコンの画面で勉強してもいいし、プリントアウトしたければ、自腹を切ってプリントアウトします。専らアナログ世代の自分は、なかなかパソコンの画面で勉強できませんので、プリントアウトを好みます。
足りない情報はインターネットや図書館の本を使って勉強しますので、教科書を買う必要はありません。



現在、医療機器の修士をとるために勉強していますが、学科は生体医用工学。英語ではBiomedical Engineeringといいます。簡単に言えば、医療と工学が組み合わせられた学科です。授業は、医療、化学的なものに加え、電気電子関連の授業もあります。心電計、パルスオキシメーターなどを実習で製作することもできます。

学士を取るための大学生時代、医療電子工学科を卒業し、国家試験に受かり、自分は臨床工学技士となりました。英語では、Clinical Engineeringと言います。Biomedical EngineeringとClinical Engineering ではあまり違いはなく、国、大学や教授によって教えている内容に若干の違いはありますが、基本的に勉強できる内容は統一されています。

全教科ではありませんが、教科一覧。
FH Aachen University course contents

1. 解剖学
2. 物理学
3. 生化学
4. 流体力学
5. 人工臓器
6. 材料工学
7. 統計学
8. 電気・電子回路
9. レーザー技術
10. 生体センサー
11. 計測工学
12. 医療画像
など



去年のちょうど今頃、1学期は、Biomedical Engineeringへ参加するための単位を補習するための期間でした。自分が学士を取ったのは2008年。もちろん日本語での授業だったので、この補講期間は本当に助かりました。学士で勉強したことの復習に加え、それを英語で理解するという期間が約4か月間ありました。
英語で単位が取れるかどうかも分からず、不安いっぱいでした。


一番大変だったのは、解剖学の授業。悲鳴をあげそうでした。骨、間接の名前、構造や機能、血液の成分…日本語の単語なんて一切通用しませんし、知識不足を痛感しました。
かなりまれですが、中には日本語が世界に知れている単語もあります。


生化学の授業中。教授が質問してきました。

「人間には味を感じる受容体があります。1.甘味(Sweet)2.酸味(Sour)3.塩味(Salty)4.苦味(Bitter)。もう1つは?」


何だろうと考えていると、待ちきれなかった教授は答えを言いました。

「5つ目は…うまみ(UMAMI)!」


そして自分に向かって、

「これ日本語だろ?発音合ってる?」

と聞いてきました。




目科学の授業では、

「目の色覚異常を探るために、カラーテストを行います。このカラーテスト、何ていうか知ってますか?」
……。これも誰も答えられませんでした。

「知っておいてください。Ishihara-testといいます。」
「え?石原さん?」


ということもありました。眼科に掛かった方は経験があるかもしれません。
絵の中に隠された数字を言い当てるものです。色覚に異常がなければ、数字が認識できます。




日本人は本当に優秀で、時に開発者の名前や地名が使われています。そういった、自分にとっては馴染みのある単語は、すんなり頭に入ってくれます。


新たな知識を身につけると、アフリカに行く前に知っていたら、もっと充実した活動ができたと感じます。


なんとかここまで単位は無事に取れていて、成績は学期を重ねるごとに良くなっています。それは専門用語に慣れてきたり、ドイツ人英語に慣れてきたり、勉強の方法が確立出来てきたからだと思います。それが分かっただけでも、ドイツに来た意味は大きいです。


医療+工学の組み合わせは、現代医学に無くてはならないものです。活躍できる幅は広く、将来は自分次第でいくらでも可能性は拡がります。

例を挙げるときりがありませんが、腎臓の機能を失った患者が行っている血液透析、足を失った患者が再び歩けるようになるための義足、乳がん患者が失った胸をインプラントにより、元の生活を取り戻したり、心臓手術中の人工心肺装置など…失われたり、機能しなくなった身体の機能を治療、代替したり、人の生活の質向上のために、かけがえのない分野です。
再生医療でいえば、臓器を3Dプリントするような技術、そして、日本が誇れる京都大学の山中 伸弥教授のiPS細胞は、まさにこの分野です。
ドイツでも、たくさんの研究者たちが、iPS細胞を用いた研究を重ねています。

あるクラスメイトは、STAP細胞について調査し、プレゼンテーションを行いましたが、その後のスキャンダルを知らなかったようでしたので、
「調査研究をしてますが、現在のところやっぱり存在しないみたいですよ。」
と、やんわりコメントしておきました。日本人として今後の望みも込めて。



実は、親戚の叔父が10年以上も前に交通事故により脊髄損傷を負ってしまい、会話はできるものの、日常生活は介護を必要としています。どうにかしたい気持ちを長年もっているので、再生医療には非常に期待しています。
治験はすでに札幌医科大で行われているので、一刻も早く一般的な治療法として確立することを望んでいます。


そして、同じくらい頭の傍らにいつもあることは、やっぱりアフリカのこと。アフリカで過ごした2年間で、医療機器の大事さを身に染みて分かったので、どうにか得た知識を活かして現状を変えたい思いがあります。
医療機器と国際協力というマイナーすぎる組み合わせは、クラスメイトと話していても、大学の教授と話しても、国際協力に興味を持っている人は少ないのですが、どのように社会貢献ができるかいくつかアイデアはありますので、新たな道を切り開きたいと思っています。



これから修士論文に向けて準備を進めていかなければなりませんが、もし国際協力に興味や経験を持つ教授がみつかり、協力が得られれば、医療とアフリカという組み合わせで論文への調査や研究をしたいと思っています。
無理だとしても、医療機器の開発研究で論文を書くなど、他の選択肢もありますので、可能性を潰さずに、自分がやりたいことの優先順位をつけて、無事に卒業することを目標に頑張っていきます!

この夏、充実した時間が過ごせるようにします。


Ichimasa